きっかけは、些細なことだった。
菓子パンと缶コーヒーを買い、近所の公園のベンチで日向ぼっこをしながら遅めの朝食。
独りだと何時に起きようが誰に迷惑が掛かる訳でもないので気楽なものだ。
公園内には幼い子ども達を連れた数組の親子の姿が見える。
皆、楽しそうに声をあげて走り回っている。
隣のベンチでは品の良さそうな老夫婦がポツリポツリと会話をしながら、そんな様子を見守っているようだった。
俺はそんな人々を風景の一部として捉えながら、ただボーっと日頃の疲れを癒していた。
(来週の仕事、納期間に合うかな…。)
(あっ、あの本の最新刊。発売明後日だから忘れないようにしないと。)
などと、取り留めのない事を考えていると隣の老夫婦は昼食の為に帰宅するのかベンチから立ち上がった。
(俺は朝飯だけど、普通はもう昼飯の時間だもんね。)
そんなことを思いながら何となく二人の背中を目で追っていた。
おじいさんは少し先を歩き、おばあさんが2歩くらい離れて追っていく。
(あの年代の夫婦は亭主関白で、女の人は黙って付いていくって感じなのかもなぁ。)
なんて、勝手な妄想を膨らませていると、おじいさんが振り向きおばあさんに手を差し出していた。
実はこの公園、砂が外に出ないように出口の少し手前の縁石がほんの数cm高くなっているのだ。
おばあさんは少し恥ずかしいような素振りをしながらも、嬉しそうにおじいさんの手を握り縁石を越えゆっくりと帰って行った。
この光景を見た瞬間に、すごく心が温かくなった。
(ヤバっ、じいさんカッコいい!こんな夫婦にだったらなりたいかも。)
37年間生きてきて、初めて結婚も悪くないなと思った篤であった。
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